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カテゴリ: 本

私とは何か
『私とは何か 「個人」から「分人」へ
平野 啓一郎 著

「個人」に対して「分人」。
著者が、
【「個人」とは“様々な本当の自分”=「分人」の集合体で、
個人の性格はそれぞれの分人の比率で変化すると言える】

というようなことを、数々のエピソードを用いて分かりやすく分析(説明)してくれます。
( 個人を1としたら、分人は全て足すと1くらいになる分数、という感じ。)

日頃、おそらく多くの人が
「こんな自分もあんな自分も、どちらも演技なんかじゃなくて“本当の自分”なのに」
などと思っているのでは??(特に、コミュニケーションが多様になった現代では一層。)
・・・そんな思いを「分人」主義で説明してゆくと、かなり納得。
なんとなく考えていたことをはっきりと言語化された感じです。
逆に
「こんな自分は生きていても仕方がない 」なんて思ってしまったりもするかもしれない。
・・・それも「分人」主義にのっとれば随分と人生がかわります。きっと。

一番わかりやすいのは
学校や職場でいじめられて、自分の存在価値を見出せないでいるAさん。
もしかしたら「こんな自分」は死んでしまえばいい、と思うかも。
でも、いじめられて辛い思いの暗い自分は、
いじめている人たちとの関わりで生きている、自分の中のひとつの分人にすぎない。
だから、その分人の比率を(環境を変えたり、意識をそこに集中させないなどで)減少させ、
他の(例えば幼馴染とのかかわりの中の明るい自分などの)分人の比率を増幅させればいい。

そうして、自分にとって好ましくない分人の比率を減少させ、
好ましい分人の比率を増やしていくようにすれば、随分と生きやすくなる。

・・・え?なんのこっちゃって??

もっと言うと、
恋愛対象に対して抱く「この人が好き 」というのは、つまり
「この人と生きている自分が好き 」ということである、ということも。
これも著者による分人主義でうまく説明がつきます。

では、自分が一人でいるときはどうなのか?
・・・この疑問についても著者なりの見解が述べられています。

“死”についての項にもかなり頷きました。


携帯できるサイズでボリュームもさほどなく、さっと読めてしまうのですが
もしかしたら、ここに言語化された解釈は読んだ人をかなり救うのかもしれません
(かつ、著者の他の著書の解説本ともなっています。)
難しい言葉も使われることなく書かれているので、大人よりも、むしろ
自分探し真っ最中だったりする中高生が読んでおくと、今後の生き方が変わるかも知れませんね。

・・・と、いうことで
「学校に持っていくから、何か簡単でイイ新書、貸して。」
と寄って来たお嬢に持たせたのでした。

『セイジ』
『セイジ』 辻内智貴 著

先日記事をアップした映画『セイジ -陸の魚ー』(記事はこちら)の原作ですね。

薄い文庫に『セイジ』と『竜二』が収録されています。

人は何のために生まれてくるのか、そこに意味はあるのか(意味を見出したい)。
という問いと想いが満ちている(と、思う)。
また、神とは、救いとは“何”か、というような疑問も。
(誰もが必ず抱く問いでしょうね・・・。)

私は、いまのところ
自分の中で、“神”というものを、“自分自身が信じるもの”と位置づけていることもあり、
すんなりと読めて、且つ沁みた。

あっという間に読めてしまうし、ちょっとした移動のおともに、一読の価値あり。

競争優位で勝つ統計学
『競争優位で勝つ統計学』 (原題『THE HOUSE ADVANTAGE』)
ジェフリー・マー著

さて、先日お話した映画『ラスベガスをぶっつぶせ』(記事はこちら)で、
主人公のモデルとなったジェフリー・マーの著書。

数字を信じ、統計上の優位を信じる・・・ビジネス本。

ところが、これは人生全般において通じるもので、
いかに未来の予測のために過去の情報収集と分析が重要か。
また、そこに至るまでの、適切な問いの重要性などが語られています。

当然“マネーボール”(映画の感想はこちら)もガンガン引用され、ビリー・ビーンの名も登場します。

個人的に、特に印象に残っている箇所を挙げると

【第3章 バイアスにとらわれない】の
“二つの事象に相関関係があっても、因果関係がない場合がある”というあたり。
・・・たしかに!まるで因果関係があるかのそうな相関性も、よく観察すると因果関係がなかったり、
因果関係があるからと言って、未来予測に役立つものとは限らない。・・・

【第8章 結果で決断を評価しない】の
“損失回避に陥らない発想を理解する”のあたり。
・・・なるほどね。価値基準の問題。でも、これってかなり難しい。・・・

などですが・・・。
どこをとっても、“正しい”意思決定のために何をなすべきか
ということが、身近な例を挙げてわかりやすく語られています。

金儲け根性丸出しのように聞こえますか??
・・・それだけではなく、すべての物事に共通することなので、もはや生き方そのものです。

ビジネスマンなら当然ビジネス面に活かせるでしょうし、
そうでなくても、自分の生きる世界に活かせることが学べる本です。

また、ビジネス本としてでなく、
単に“読み物”としても、テンポも良く、内容も刺激的で、面白いです。

音のない花火
『音のない花火』 砂田麻美 著

ドキュメンタリー映画『エンディングノート』(記事はこちら)にヤラれ、砂田監督に興味をそそられ、
気になっていたこの著書に・・・。

映画(事実)をベースに脚色され、架空の登場人物たちによってまた別の物語になっています。
それでもお父さんのキャラクターが砂田さんそのままのようだったり、
読み進める中のあちこちに映画のシーンを思い出します。
別な物語のようで、繋がっている。
別な世界にも砂田一家が暮らしているような。

言葉の選び方にユーモアも感じます。

ひとつ、
“不幸の比較は生きる力になる”という一節がひっかかりました。

人を救ったり癒したりすることで、
結果的に自分自身が救われたり癒されたりしているのは、間違いなく真実だと思うのですが、
上の一節は、ちょっと迷走しているときの感覚ではないか、と。
どん底の暗闇で迷っている時だからこそ、
そうしたわかりやすい思考が生きる力になると言いたいのかもしれませんが・・・。

もしかしたら、著者はそうした比較をすることで
不幸や悲しみの中から「私はまだやれる」と感じることができたのかもしれませんね。

実は本書で一番グッときたのは、主人公と男友達のやり取りでした。
特に、一夜を過ごした後の表現が、短いながらもとても素敵でした。

イニシエーション・ラブ
『イニシエーション・ラブ』 乾 くるみ 著

もう、何年も前の本で、読んでからずいぶん経ちますが、
先日本屋さんに行ったら、平積みされてて“TV番組で紹介された”と。
で、思い出して今更ながらアップする、という流れデス。

誰にでも経験がありそうな恋愛・青春小説・・・と思って読んでいると
“後半”あたりから「あれ?」「こいつ、もしかして・・・」とあることに気付くのです。
いや、気付かないままラストにむかう人も多いかもしれません。
ラスト数行で決定打を打たれますが、それでもわからない人はもう一度よく読みましょう。
背筋が凍るよ。

ちなみにうちの相方さんは読み終えても
「何がそんなに戦慄?? 」とぼーっとしてたので、説明しました。
ここで説明内容を書くと、未読の方に申し訳ないので。

相方さんも理解の後は「ひえー。。 」と。
連続殺人ミステリーでもないのに、恐ろしい・・・。

内容よりも、構成の巧さに唸る1冊。

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